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ゼロトラストとは?わかりやすく解説 - 導入製品と実践手順

著者 aki公開 更新 13

ゼロトラストとは

ゼロトラスト(Zero Trust)とは、「社内ネットワークにいるから安全」「一度認証したから信頼できる」という前提をすべて取り除き、すべてのユーザー・デバイス・通信を信頼しない(Zero Trust)ことを前提としたセキュリティの考え方です。

原則は 「Never Trust, Always Verify(信頼しない、常に確認する)」。アクセスのたびに「誰が」「どのデバイスから」「何を」しようとしているかを確認し、最小限の権限だけを与えます。

2010年に Forrester Research のアナリスト John Kindervag が提唱し、2020年に米国国立標準技術研究所(NIST)が SP 800-207 として標準化しました。日本では経済産業省や総務省もゼロトラスト移行を推進しており、特に政府機関・金融機関で導入が加速しています。

なぜゼロトラストが必要になったのか

従来のセキュリティは「境界型防御」が中心でした。ファイアウォールで社内・社外を区切り、社内ネットワークに入れた人・デバイスは信頼するという考え方です。

この前提は、以下の変化によって崩れました。

  • テレワーク・リモートアクセスの普及: 社員が自宅・カフェ・海外から業務システムにアクセスします。「社内にいる=安全」が成立しません。
  • クラウドサービスへの移行: データが社内サーバーではなく AWS・Microsoft 365・Google Workspace に置かれます。「境界の中にデータがある」という前提がありません。
  • BYOD(個人デバイスの業務利用): 管理されていない個人の PC・スマートフォンで業務データにアクセスします。デバイスの安全性が保証できません。
  • 内部脅威の増加: 正規の社員・委託業者・取引先が情報を漏洩させるケースが増えました。「社内ネットワークにいる=信頼できる人間」ではありません。
  • VPN の限界: VPN に侵入した攻撃者は社内ネットワーク全体にアクセスできます。ランサムウェアが VPN 経由で広がる事例が後を絶ちません。

従来型セキュリティとゼロトラストの違い

観点従来型(境界型防御)ゼロトラスト
基本的な前提社内=安全、社外=危険どこからのアクセスも信頼しない
認証のタイミングネットワーク境界で一度アクセスのたびに継続的に確認
VPNに入った後社内リソースに自由にアクセス可能リソースごとに個別に認可が必要
横展開(Lateral Movement)侵入されると広がりやすいマイクロセグメンテーションで封じ込め
デバイス信頼社内ネットワーク接続で信頼デバイスの健全性を継続的に評価
クラウド・リモートワーク後から追加するのが難しい設計思想として前提に組み込まれている

NIST SP 800-207 の7原則

NIST(米国国立標準技術研究所)は SP 800-207「Zero Trust Architecture」でゼロトラストの7原則を定義しています。

  1. すべてのデータ・サービスはリソースとして扱う: 物理デバイス・IoT機器・クラウドサービスをすべてリソースとして一元管理します。
  2. すべての通信は場所によらず保護する: 社内・社外・VPN内を問わず、すべての通信を暗号化し認証を行います。
  3. リソースへのアクセスはセッションごとに許可する: 一度認証したからといって継続アクセスを許可しません。セッションごとに再確認します。
  4. リソースへのアクセスは動的ポリシーで決定する: ユーザーの属性・デバイスの状態・場所・時間などの複合要素でアクセス可否を動的に判断します。
  5. すべての資産のセキュリティ態勢を継続的に監視・検証する: デバイスの健全性(パッチ適用状況・マルウェア検知・設定など)を常時監視します。
  6. すべての認証・認可を厳格に行う: アクセス前に厳格な本人確認と権限確認を行います。
  7. 資産・インフラ・通信から収集した情報を活用してセキュリティ態勢を改善する: ログ・テレメトリを分析してポリシーを継続的に改善します。

ゼロトラストを構成する主要な技術要素

① ID・アクセス管理(IAM)/ 多要素認証(MFA)

ゼロトラストの土台です。「誰が」アクセスしているかを確実に確認するために、MFA(多要素認証)IDプロバイダー(IdP)を整備します。パスワードだけの認証は廃止し、FIDO2・パスキー・TOTP などを組み合わせます。

② デバイスコンプライアンス / MDM

アクセスしてくるデバイスが「管理された安全な状態か」を検証します。MDM(モバイルデバイス管理)や EDR を使い、パッチ適用状況・暗号化設定・マルウェア感染の有無を確認します。

③ 最小権限アクセス(Least Privilege)

業務に必要な最小限のリソースだけにアクセスを許可します。「全社のファイルサーバーにアクセスできる」ではなく「この業務に必要なフォルダだけアクセスできる」という粒度で権限を設計します。

④ マイクロセグメンテーション

ネットワークを細かく分割し、セグメント間の通信を明示的に許可したものだけに限定します。侵入された場合でも横展開(Lateral Movement)を防ぎます。

⑤ 継続的な監視とログ分析

「信頼した後も監視し続ける」。異常なアクセスパターン・不審なデータ転送・ログイン場所の急変などを SIEM / SOAR で検知し、動的にアクセスを遮断します。

代表的な製品・サービス

カテゴリ代表製品特徴
IDプロバイダー / IAMMicrosoft Entra ID(旧 Azure AD)、Okta、Google WorkspaceMFA・条件付きアクセス・シングルサインオン
デバイス管理Microsoft Intune、Jamf、CrowdStrike FalconMDM・EDR・デバイスコンプライアンス評価
ネットワークアクセス制御(ZTNA)Zscaler Private Access、Cloudflare Access、Google BeyondCorpVPN不要でアプリごとのアクセス制御
SASE(統合型)Zscaler、Prisma Access(Palo Alto)、NetskopeZTNA + SWG + CASB + FWaaS をクラウドで統合
ログ・監視Microsoft Sentinel、Splunk、CrowdStrike Falcon LogScaleSIEM・異常検知・自動対応(SOAR)

Microsoft Entra ID は Microsoft 365 環境を使っている企業ならすでに利用可能で、条件付きアクセスポリシーを設定するだけでゼロトラストの基礎を始められます。まず追加費用なしで始められる領域から着手するのが現実的です。

ゼロトラスト導入のメリット

  • 侵害時の被害を最小化できる: 攻撃者が一つのアカウントを乗っ取っても、最小権限と細かいセグメンテーションにより横展開を防ぎます。ランサムウェアの拡散も抑制できます。
  • テレワーク・クラウド環境に適している: 場所を問わず同じポリシーで管理できるため、在宅勤務・出張・海外拠点で異なるセキュリティルールを適用する必要がなくなります。
  • 可視性が高まる: 誰がいつどのリソースにアクセスしたかが常に記録されます。インシデント発生時の調査が容易になります。
  • コンプライアンス対応がしやすい: アクセスログの網羅的な記録、最小権限の実装は GDPR・個人情報保護法・ISO 27001 などの要件を満たすうえで重要です。

導入時の課題

  • 一度に全部はできない: ゼロトラストは「製品を導入して終わり」ではなく、ID・デバイス・ネットワーク・アプリ・データの各レイヤーを段階的に整備する継続的なプロセスです。
  • 初期コストと運用コスト: ZTNA・IAM・MDM 製品の導入費用に加え、ポリシー設計・運用担当者の育成コストがかかります。
  • レガシーシステムへの対応: MFA に対応していない古いシステムをどう扱うかが課題になります。特に製造業・医療では古い業務システムが多いです。
  • 利便性との兼ね合い: 過度に厳しいポリシーは業務効率を下げ、シャドーITを誘発します。ユーザーが不満を持たない程度のバランス設計が重要です。

日本企業がゼロトラスト導入を始める現実的なステップ

  1. MFA の全社展開(最初の一歩): 追加費用が最小限で最も効果が高い施策です。Microsoft 365 / Google Workspace ならほぼ無料で設定できます。
  2. 条件付きアクセスポリシーの設定: 管理されていないデバイスや異常なアクセス(海外 IP・深夜)をブロックするポリシーを設定します。
  3. 特権アカウントの管理強化: 管理者権限の最小化・Just-in-Time アクセスの導入・特権アクセスの監視。
  4. デバイス管理の整備(MDM): 業務端末を MDM に登録し、パッチ適用状況・暗号化の強制・紛失時のリモートワイプを整備します。
  5. ネットワークセグメンテーション: VLAN・ファイアウォールルールを見直し、業務システムを細かく分割します。

実体験:VPNの限界を知ってから意識が変わったこと

ゼロトラストについて勉強してからは、「社内ネットワークだから安全、外部からのアクセスだから危険」という境界型の考え方だけでは不十分なんだと意識するようになりました。特にVPNについて調べていたときに、VPNで社内ネットワークに入れたからといって、そのユーザーや端末を無条件に信頼していいわけではないという考え方が印象に残りました。

個人開発でも、必要以上の権限を与えないことや、APIキーなどの認証情報を必要な場所だけで利用することなど、「一度アクセスできたから全部信用する」のではなく、「その操作に本当にその権限が必要なのか」と考えるようになりました。本サイトについても、そもそもユーザーの入力データをサーバーに送信・保存する必要がないツールについては、ブラウザだけで処理を完結させるようにしています。これは厳密にゼロトラストを実装しているという話ではありませんが、「必要のないものを信頼しない」「必要以上のデータや権限を持たせない」という考え方には近いと思っています。

以前はセキュリティというと「外部からの攻撃を防ぐ」というイメージが強かったのですが、ゼロトラストを勉強してからは、そもそも何を信頼するのか、どこまで権限を与えるのかを最初から考えることもセキュリティなんだと考えるようになりました。

よくある質問

ゼロトラストとは何ですか?わかりやすく教えてください。

「社内ネットワークにいるから安全」という前提を捨て、すべてのユーザー・デバイス・通信を信頼しないことを前提にしたセキュリティの考え方です。アクセスのたびに認証・認可・検査を行います。

ゼロトラストはなぜ今必要なのですか?

テレワーク普及・クラウド移行・BYOD導入により「社内=安全」という境界が崩れたためです。VPN で社内ネットワークに入れば安全という従来の境界型防御では、侵入された後の横展開を防げません。

ゼロトラスト導入にかかるコストはどのくらいですか?

中小企業では Microsoft Entra ID P1(ユーザーあたり月数百円)から MFA・条件付きアクセスを始めることができます。大企業では Zscaler や CrowdStrike などを組み合わせると数千万〜億円規模になることもあります。

ゼロトラストとSASEの違いは何ですか?

ゼロトラストはセキュリティの「考え方・原則」、SASE はその実現手段の一つです。SASE は Gartner が提唱した概念で、ネットワーク機能(SD-WAN)とセキュリティ機能をクラウドで統合するアーキテクチャです。

ゼロトラスト導入はどこから始めればよいですか?

まず MFA の全社展開から始めるのが最も費用対効果が高いです。次に IDプロバイダーの統合・条件付きアクセスポリシーの設定・デバイス管理を段階的に整備します。

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この記事を書いた人
akiサイバーセキュリティ実務者 / エンジニア

サイバーセキュリティ業界で実務に携わるエンジニア。脆弱性・認証・暗号・ネットワークなど、現場で必要になる知識を開発者・運用担当者向けにかみ砕いて解説しています。

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